大阪地方裁判所堺支部 昭和44年(ワ)563号 判決 1971年7月15日
原告 田代泰
右訴訟代理人弁護士 荒木宏
右訴訟復代理人弁護士 平山正和
被告 山崎正夫
主文
被告は原告に対し金二万〇三三二円およびこれに対する昭和四五年一月二〇日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、当事者双方の求める裁判
一、原告―「被告は原告に対し金四万七三三二円およびこれに対する昭和四五年一月二〇日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決
二、被告―「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決
第二、請求原因
一、原告は昭和四四年一〇月一一日午後九時過ぎ頃その所有にかかる軽四輪乗用自動車を運転して泉大津市臨海町二丁目一番地先道路を西から東に向け進行中、同所交差点において、折柄南進中の氏名不詳者運転の被告所有にかかる軽四輪自動車(6泉さ二九―五〇)と衝突し、これにより通院加療六日の右膝打撲傷兼右下腿挫創の傷害をうけた。
二、右事故により原告は次の損害を蒙った。
(1) 逸失利益 七、三三二円
原告は事故当時新生海運株式会社に勤務し、一日三、六六六円の収入をえていたところ、本件事故のため昭和四四年一〇月一三日、一四日の二日間欠勤したことによる損害
(2) 慰藉料 二万円
(3) 弁護士費用 三万円
三、被告は前述のとおり本件加害車の所有者で、事故当日これを運転して泉大津市臨海町埋立地海岸に魚釣りにきていたもの、加害者は通称「赤帽」と称する氏名不詳者で、同じく同埋立地海岸に魚釣りにきていたものであるが、前記日時頃魚釣りの途中で被告の承諾をえて本件加害車を運転して酒を買いに出向き、魚釣場への帰途前記事故を惹起したもので、右事故は被告所有の前記乗用車を右加害者が運転中惹起したものであるから、被告は自賠法三条の運行供用者として本件事故により原告が蒙った前記損害を賠償する義務がある。
四、仮に右主張が認められないとしても、被告は事故当日エンジンキーをさし込んだまま本件加害車を魚釣場附近に駐車させていたもので、自動車運転者は魚釣場のように人の出入りが頻繁な場所に駐車させておく場合にはエンジンキーを抜き去っておくべき注意義務があるのだから、被告には右注意義務を怠った過失がある。
第三、被告の答弁および抗弁
一、請求原因第一項中、被告が軽四輪自動車(6泉さ二九―五〇)の所有者であることは認めるが、その余は不知。
二、請求原因第二項中、損害額は否認する。
三、請求原因第四項は否認する。
四、被告は事故当日右軽四輪自動車を運転して前記埋立地海岸に赴き、魚釣りをしていたところ、何人かによって右自動車を盗まれたものである。従って被告は窃取された後の自動車についての運行支配はなく、自賠法三条の「自己のために自動車を運行の用に供するもの」には該当しないから、原告の本訴請求は失当である。
第四、立証≪省略≫
理由
一、被告が原告主張の軽四輪自動車(6泉さ二九―五〇)の所有者であることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四四年一〇月一一日午後九時過ぎ頃、右軽四輪乗用自動車を運転して泉大津市臨海町二丁目一番地先道路を西から東に向け進行中、同所交差点において、南進中の通称「赤帽」と称する氏名不詳者運転の被告所有の前記軽四輪自動車と衝突し、これにより通院加療六日を要する右膝打撲傷兼右下腿挫創の傷害をうけたことが認められる。
二、よって、本件は被告と無関係の第三者による無断運転であって、事故当時被告は運行供用者としての地位を喪失していたとする被告の抗弁につき判断する。
≪証拠省略≫によれば、被告は事故当日その所有にかかる前記軽四輪自動車を運転して泉大津市臨海町埋立地海岸に魚釣りに赴き、エンジンキーをさし込み、ドアも施錠しないまま車を駐車させ、右駐車地点より約一〇米はなれた場所で魚釣りをしていたこと、同時刻頃同所附近で魚釣りをしていた通称「赤帽」と称する氏名不詳の男が、魚釣りの途中で酒を買いに行くため、被告所有の前記軽四輪自動車を被告に無断で運転して附近の酒店に出向き、魚釣場へ帰るべく北から南に向け進行中、魚釣場より約二〇〇米はなれた前記交差点において、同じく右埋立地海岸から魚釣りを終えて帰るべく同交差点を西から東に向け進行中の原告車と衝突したこと、右埋立地海岸には当日数十人の魚釣り人が参集しており、相当数の乗用車が出入りしていたこと、被告は前記「赤帽」と称する氏名不詳の男が本件事故車を発進させた際、自分の車のエンジンの音とよく似ていると感じながらも魚釣りにとりまぎれてそのまま放置していたことが認められる。
以上の事実よりすれば、被告は本件魚釣場のように比較的人の出入りの多い場所において、車のエンジンキーをつけ放しのままドアも施錠せずに駐車させていたことは、車の管理保管の仕方がルーズであったものというべく、又このような状況に放置しておいた自己車のエンジンの音とよく似ていると感じながら、注意することなく放置しておいたことから判断すると、被告と右無断運転者とは人的関係において無関係であるとはいえ、当時における被告の前記態度は、客観的には右無断運転を容認した場合と同一にみなされてもやむをえないものというべきである。そして右運転の容認がある場合と同一にみなされる以上、本件事故当時において被告の運行支配は、本件事故車に対し及んでいたものと認めるのを相当とするから、被告は自賠法三条の運行供用者に該当するものというべきである。
なお車が、その所有者と無関係の第三者により無断運転された場合、その運行により所有者に運行利益が帰属することは特別の事情のない限りありえないことであろうが、自賠法三条の責任の根拠を危険物である車の管理支配に求める限り、同条による運行供用者責任を認めるためには、運行支配の有無によってその責任の存否を決すべきであって、運行利益の帰属については必らずしも特に考慮する必要はないものと解するのが妥当である。(運行利益の帰属の有無は運行支配の存在を認める一つの徴憑にすぎないと考える)。
よって被告は運行供用者として原告に対し本件事故により原告の蒙った後記損害を賠償する義務がある。
三、原告の損害
(一) 逸失利益 七、三三二円
≪証拠省略≫によれば、原告は事故当時新生海運株式会社に勤務し、一日三、六六六円の収入をえていたところ、本件事故のため昭和四四年一〇月一三日、一四日の二日間欠勤し、七、三三二円の得べかりし利益を失ったことが認められる。
(二) 慰藉料 一万円
傷害の部位程度より判断して本件事故により原告の蒙った精神的苦痛を慰藉すべき額としては右一万円をもって相当と考える。
(三) 弁護士費用 三、〇〇〇円
以上合計 二万〇三三二円
四、よって原告の本訴請求は右二万〇三三二円およびこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四五年一月二〇日より完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋水枝)